
「他者の痛み 特別セミナー~21世紀において『水俣病にたいする企業の責任』を読む~」が2月16日、熊本大学・文法学部本館で開催された。主催は熊本大学大学院人文社会科学研究部附属国際人文社会科学研究センター・学際的研究資源アーカイブ領域。
1970(昭和45)年に刊行した報告書『水俣病にたいする企業の責任』の増補・新装版(石風社)出版記念として開いた同セミナー。参加者は約60人で、企業の社会的責任や環境問題といったテーマを巡り、議論が展開された。
水俣病第一次訴訟を支援するため、事件の検証・解明を進めてきた水俣病研究会のメンバーが執筆した同書。チッソの企業責任を追及し、医学的な実態や発生メカニズムを分析している。訴訟の理論的支柱となり、企業の安全配慮義務や環境モニタリングの重要性を説く文献としての一面も持つという。
基調講演を務めたのは、水俣病研究会代表の有馬澄雄さん。現代の環境問題だけでなく企業災害への警鐘として同書の意義を強調。「原発事故や化学物質による健康被害など、企業活動がもたらす負の側面を検証する上で重要な示唆を与え続けている」と話した。その後、チッソOBで同書初版本の執筆者の一人、水俣病被害市民の会の山下善寛さんも登壇。加害企業の元労働者という独自の立場から、企業の意思決定と現場の乖離について言及。組織のあり方を根本から問い直す必要性を訴えた。
講演後の討論会では、企業統治や地域との共生、持続可能な開発目標(SDGs)との関連性などを意見交換。参加者からは「半世紀前の知見が、現代の企業倫理に新たな視座を与えている」などの感想が寄せられた。
発行部数は1200部限定で、定価は3,500円。